日本の教育制度と教育実践
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1 Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政


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2 Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政 3
4  日本の法令は成文法と不成文法とから成り、成文法は憲法を最高法規とし、国会、内閣及び国の省庁等が定める国家法令と、各自治体及びその機関が定める自治法令とから成る。不成文法には、慣習法、判例法、行政実例法、条理法などがある。不成文法のうち、日本では特に行政実例法、すなわち責任行政機関による法令の規定に対する解釈(通知や回答)が法令運用の際に解釈規準として実質的な意味を持つことが多い。 Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  日本の様々な教育法規は、教育基本法の第11条に基づいて、教育基本法の実施に際して必要な法規として定められたものである。従って、教育基本法と他の教育関連法は、法律としては形式上同格の性格を持つが、その特殊な性格から教育基本法は準憲法的な法律であるとされている。
 スライドで紹介した以外の教育関連法令は、以下の通り。
●私立学校関係:私立学校法、私立学校振興助成法、日本私学振興財団法
●社会教育関係:社会教育法、図書館法、博物館法、青年学級振興法、スポーツ振興法、文化財保護法、生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律
●教育職員関係:教育公務員特例法、地方公務員法、市町村立学校職員給与負担法、学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法、国立及び公立の義務教育諸学校等の教職員の給与等に関する特別措置法、教職員免許法
●教育行財政関係:地方教育行政の組織及び運営に関する法律、地方自治法、文部科学省設置法、地方財政法、地方交付税法、義務教育費国庫負担法、義務教育諸学校施設費国庫負担法、公立学校施設災害復旧費国庫負担法、公立高等学校危険建物改築促進臨時措置法、公立養護学校整備特別措置法
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 ここでは、成文法の中の国家法令の系統について簡略に説明する。国の最高法規は日本国憲法である。国会で審議されて成立する法律を具体的に運用するために内閣の閣議で決定されるのが政令であり、各省庁の国務大臣が発する命令が省令である。学校教育法を例に挙げれば、学校教育法施行令が政令、学校教育法施行規則が省令である。省令には、その他に設置基準や教科書検定基準などの基準が含まれる。図の右端に並ぶ通達、 告示、訓令はそれぞれ国務大臣が発するが、省令との違いは省令が法的拘束力を有するのに対して、通達等はそれ自体としては 法的拘束力を持たず、従ってこれに反しても法的に罰則や制裁を科されるものではない。しかし、告示である学習指導要領は、 学校教育法施行規則により教育課程については学習指導要領によるものとすると規定され、要領に従わない教育課程の実施は 施行規則違反として罰せられる場合がある。  教育関係の法令集は、様々な出版社が毎年改訂版を発行しており、近年の相次ぐ法令の改正に教育現場が対応していくために寄与している。教育機関には、著作権法など近年は直接教育に関わる法規でなくとも知らないでは済まされない法令も多岐に渡って存在するため、年々その厚さが増しているというのが実状である。規制緩和政策が逆に法令を増やしているとの指摘もある。
6 第1条 教育の目的=教育の目的として、教育の私的側面と公共的側面が含まれている。特に、「人格の完成」が筆頭にあげられており、戦前の国家主義的な教育のあり方への反省がそこには含意されている。
第2条 教育の目標=「あらゆる機会」「あらゆる場所」において教育の目的が達成されるようにすることが規定されている。
第3条 教育の機会均等=経済的理由や出自、性別などによって教育を受ける機会が制限されてはならないことが規定される。「能力に応ずる教育」の意味は、能力によって差別されることを認めるという意味ではなく、「ニーズに応じた教育」との解釈されるようになっている。
第4条 義務教育=保護者に9年間の教育義務が課される。学校教育法によりこの教育義務は就学させることによって遂行されるものとされている。
第5条 男女共学=男女共学は認められなければならない。
第6条 学校教育=教育が公共的性格を持つことから、学校の設置者は国・地方公共団体及び法で定める法人のみがこれを設置することができる。これらの学校の教員は「全体の奉仕者」であることが規定されている。
第7条 社会教育=社会教育は国及び地方公共団体によって奨励されなければならないことが規定されている。
第8条 政治教育=良識ある公民たるに必要な政治教育は尊重されなければならないが、法律に定める学校は、特定の政党を支持したり、これに反対する政治的教育や政治的活動をしてはならない。
第9条 宗教教育=宗教に対する寛容の態度、宗教の社会生活における地位は尊重されなければならないが、私立学校以外では特定の宗教のための教育や宗教的活動をしてはならない。
第10条 教育行政=教育は、不当な支配に服することなく国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきことが規定され、教育行政は教育の目的を遂行するに必要な条件整備を目標として行われなければならない。
Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  教育の目的・目標を達成するための基本的な理念は、教育の機会均等と能力に応じた教育の実現である。それを具体化するために、義務教育の整備、学校教育の公共性の確立、生涯学習体系の整備、教育の政治的中立性(私立学校以外では宗教的中立性を含む)の確保、人材・施設設備・教育内容等の教育条件の整備確立が要件となる。 7
①日本の教育基本法には、目的規定があること。それが第2次大戦前の超国家主義的教育を払拭することを企図して設けられたこと。 
②教育を受けるに当たって経済的な障壁をなくすことが教基法体制の当面の課題であったこと。「能力に応じて」の解釈が一義的ではないこと。 
③義務教育は法律に定められた学校に就学させることを意味するのか、より広く解釈されるべきかの議論があること。 
④公共性をめぐって議論があること。 
⑤生涯学習の理念が既に含まれていること。社会教育との関係。 
⑥教育の政治的・宗教的中立性への強い要請から、教員の間に政治・宗教への忌避意識があること。 
⑦教育の条件整備について、どこまで国が関与できるかをめぐって議論があったこと。
 教科書裁判、学テ裁判など日本の戦後教育行政の在り方に大きな影響を持ち、教育における国の関与をめぐって論争が展開されてきたことの象徴的な事件として2つの裁判がある。特に、学習権解釈、教育権の所在に関する2つの解釈に対する判断などが争点であった。  
教育における国の関与がどこまで許されるのかをめぐる議論は、国民レベルで教育行政の在り方が議論されたという意味で、戦後の日本国民に教育問題への関心を高めさせた一つの要因であったことは確かである。しかし、一方で、例えば教育行政への父母・地域住民による代表参加の仕組みや学校の自律性を育てることなど、教育行政の仕組みを変えていく取り組みが遅れたことも否めない。近年は従来対立的であった国(文科省)と教員(日教組)との協調路線が取られるようになり、一気に教育行政改革が進展しているが、他方で有力な批判勢力が見えにくくなっていることも懸念されている。
8  60年代までは、主に教育行政をめぐる戦後改革の変容、70年代以降は中央集権から地方分権へという動向が見られた。教育委員会法によって民主化の原理に基づいて再出発した日本の教育行政であったが、教育の政治的中立を図ることが政策課題であった50年代の半ばに教育委員会法は大幅に改正されて地方教育行政の組織及び運営に関する法律の成立を見た。ここで、教育行政の中央集権化が進んだ。臨教審答申の3本柱(個性重視、生涯学習体系への移行、国際化情報化等の社会の変化への対応)に基づいて、80年代半ばから具体的に展開される教育改革の原型を71年の中教審答申に見ることもできる。 Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  1948年教育委員会法においては民主化原理、地方分権原理、自主性原理の三つの原理に基づいていたが、地教行法による改変を経て、近年の地方分権政策に基づく法改正に至っている。地教行法により教育委員会法の立法趣旨から乖離しただけでなく、教育委員会の活性化が課題として残されることとなった。1999年の地方分権一括法により、教育長の任命承認制度の廃止や機関委任事務の廃止等地方分権化とともに総合行政の中に教育行政を改めて位置づけることが求められることとなった。  アメリカの教育委員会制度に倣って創設された公選制教育委員会制度は、結果的に政党間の勢力争いの体を取る形になり、「逆コース」と呼ばれた戦後の民主化・地方分権化路線から大きく政策の流れが変わる方向性とも相まって、任命制に取って代わられることとなる。 9
 戦前と戦後の教育行政の理念から担い手に至るまでを対比させて図示している。①戦前は教育立法が天皇・枢密院の教育意思を直接反映させる勅令主義であったが、戦後は憲法・教育基本法の定めにより教育行政を運営する法律主義になった。②戦前は教育を国の事務とし、学校の監督や人事管理を国が担い、施設整備や給与負担は地方が担う仕組みであったが、戦後は地方分権の原則に基づき、 地方自治体が教育事務の所掌主体となり、国は指導助言機能を担うこととなった。③戦前は視学制度を機軸とした文部大臣(視学官) -地方長官(府県視学・郡視学)-市町村長(学務委員)-校長・教師という上下関係であったが、戦後は原則として文部大臣と地方の 教育委員会とは法的に対等であるとの原則がとられるようになった。(『要説教育制度(新訂版)』p.174より)  現代福祉国家においては、国による積極的給付的教育行政が要請され、中央教育行政の役割が強化されるとともに、国の教育財政負担も増大する。このことにより、教育行財政制度は多くの側面での改革を求められた。それらの中には、①行政参加制度、②教育計画の導入、③教育研究体制の整備などが含まれる。一方、現代福祉国家は納税額と福祉等の給付とが反比例するという課題を抱えるがこの課題は経済活動の活性化に必ずしもつながらない。80年代の先進諸国の教育を含む社会改革は、規制緩和を特徴とした。これらの国は国の事業を民間委託したり、国営産業を民営化するなど「小さな政府」をめざし、 競争原理に基づく経済活動の活性化を図った。規制緩和政策の中での教育行政は、事前規制型の行政から事後チェック型の行政に その役割を転換することが求められており、どのようにして公共性を保持するかが重要な課題となる。限られた教育資源で有効な 教育事業を行うために、福祉国家型の教育行政が教育計画を導入したのに対して、規制緩和型の教育行政では、教育計画よりも 費用対効果(Value for Money)の最大化のために積極的に民間の活力を導入し、競争的に教育資源を有効活用することが 目指された。(『要説教育制度』2003年、学陽書房、p.188)
10  1999年の地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(略称:地方分権一括法)によって、教育行政に留まらず、日本の475の法律が地方分権を遂行するために改正された。教育関係では21の法律と政令が改正されることとなった。これらの他に、2000年の学校教育法施行規則改正により、学校評議員制度の導入、校長・教頭の任用資格の緩和、職員会議の位置づけの明確化などが図られている。次のスライドに示す教育改革プログラムをベースとして、2001年には「21世紀教育新生プラン(通称:レインボー・プラン)」が策定され、何度かの改定を経て、今日に引き続く教育改革の基本方針となっている。 Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  教育改革プログラムは、橋本内閣の6つの構造改革の一つに挙げられ、1997年1月に発表された後、数回の改訂を経て1999年9月に「教育立国を目指して」という副題がついて確定した。プログラムに示された改革項目はその後着実に具体的な制度となっている。 11
 教育改革プログラムは、橋本内閣の6つの構造改革の一つに挙げられ、1997年1月に発表された後、数回の改訂を経て1999年9月に「教育立国を目指して」という副題がついて確定した。プログラムに示された改革項目はその後着実に具体的な制度となっている。  7つの重点戦略の現時点での進捗状況や教育政策全体の中での位置などに触れる。・公立小・中学校等において基本的教科の20人授業などの少人数指導が実施できるよう教職員定数を改善。・国が定める学級編制の標準(40人)を下回る特例的基準を都道府県教育委員会の判断で設定。⇒わかる授業で基礎学力の向上。・「子どもゆめ基金」を創設し、青少年団体の行う①子どもの自然体験活動、社会奉仕体験活動等の体験活動、②読書会等の子どもの読書活動等への助成を実施。⇒地域での様々な子どもの体験活動や読書活動等の促進。・教育委員の構成の多様化と保護者登用の推進。・教育委員会の会議の原則公開。・教職員人事に関する校長の意向の一層の反映。⇒教育委員会の活性化。・指導が不適切な教員を教員以外の他の職に異動。⇒指導の不適切な教員へのより適切な対応、など
→詳しくは、http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/21plan/main_b2.htm または   
 http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/21plan/p5.htm
12  現職教員に対する英語研修(茨城県水戸市幼・小・中学校英語教育特区にそなえて) Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  教育委員会は、通常5人の委員で構成される合議体である。教育委員会は、教育・学術・文化行政の管理執行に関して大所・高所から方針を決定する権能を有するが、これに対し、その方針を具体的に執行するのが教育行政の専門家である教育長の責務である。教育長は、教育委員会のすべての会議に出席し、議事について助言することとなっている。教育委員会には、教育委員会の権限に属する事務を処理させるため、事務局が置かれる。事務局には、指導主事、事務職員、技術職員などの職員が置かれている。
 この図では、6人目の委員(○)が括弧付きになっているが、これは「6人で構成することもできる」ことを示している。上記解説にある事務局は、図示するとすれば、教育長の下に記述されるもので、この事務局まで含め、広義での教育委員会と呼ばれることがある。
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 教育委員会制度は第2次世界大戦後、アメリカの教育行政制度を参考として作られたものであるが、日本の実態に応じたものにするため、アメリカのそれと同一ではない。ただし、ここに挙げる定義や理念は、アメリカの教育委員会制度を色濃く反映したものとなっている。
 ここで挙げた理念のうち、一般行政からの独立については、教育委員会に独自の予算編成権限がないことから、首長との連携の必要性が指摘され、首長の教育行政への関心も高まっている。また、「地方分権」については、近年の地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正により、ようやく各地で特色のある取り組みが見られるようになってきている。
 この図は、教育委員会が担当する教育・学術・文化に関する行政のうち、学校に関する作用を図示したものである。公立の小中学校の設置者である市町村教育委員会と学校の関係であることに注意が必要。よって、都道府県教育委員会との関係や私立学校との関係は割愛している。また、上下向きの矢印に図示した事項は、両者の役割のうち、主な事項を挙げたものであり、両者の関係のすべてを図示したものではない。
 従来、教育委員会と学校との関係において対立・統制の関係が濃厚であったが、近年の教育行政改革により、連携・協働の関係を構築する方向へ移行しつつある。従来は見られなかった校長裁量による予算執行など新たに校長に権限を委譲する自治体が登場し、校長が強い権限をもった学校に基礎をおいた学校経営が進みつつある。(校長の職務→Ⅵ-15)
14  戦後の教育改革により、9年間の義務教育に継続する単一の後期中等教育を担う機関として設置されたのが(新制)高等学校である。その後、高等専門学校や専修学校、また中等教育学校が制度化され、義務教育後の教育機関は多様化してきたが、高等学校自体もその就学率の向上や生徒の多様化により、制度的枠組みを多様にしてきた。
 制度設定時においては、いわゆる「高校3原則(小学区制、男女共学制、総合制)」が制度的な枠組みとされたが、その後見直しが進み、制度自体が多様化してきた。制度的な類型としては、a.授業の開設形態による全日制-定時制(昼間、夜間、昼夜)-通信制、b.修了認定形態による学年制-単位制(大学に準じた単位制以外は、学年制と単位制を併用)、c.主たる専攻による普通教育学科-専門教育学科-総合学科、d.教育のレベルの違いによる 本科-専攻科(本科卒業後1年)-別科(中学卒業後1年)、に分けることができる。専門学科のほとんどは職業学科であり (他に理数科、英語科、美術科等)、職業学科は農業科、工業科、商業科、水産科、家庭科、看護科となっている。 (学校教育法→Ⅱ-37)
Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  国の教育行政機関は、内閣および文部科学省。国の行政権は内閣に属し、内閣総理大臣は行政各部を指揮監督する。内閣に直属して政策を立案し実施する省庁の中で主に教育行政を担当するのが文部科学省である。文部科学省は、2001年の中央省庁再編により文部省と科学技術庁が統合したものであり、その役割も政策官庁としての機能が強化された。文科省には中央教育審議会、教科用図書検定調査審議会等の審議会が置かれ、文科大臣の諮問に基づいて審議を行い、答申を行う。(『要説教育制度(新訂版)』p.176参照)
 図はhttp://www.mext.go.jp/b_menu/soshiki2/index.htmより
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 義務教育学校終了後、中学校卒業後に継続して学校教育を受ける者は、97.7%に達し、その学習者のニーズ、状況に応じた教育の提供が求められるようになった。このためこれまでの中学校-高等学校というメイン・ストリームに加えて、高等専門学校前期課程、中等教育学校後期課程、専修学校(高等課程-高等専修学校)、各種学校という多様な機会が設定されるようになった。また高等学校自体も、90%を越える進学率を踏まえて、これまでの「全日制-定時制」「普通課程-職業課程」という枠組みでは進学者の多様性に対応できず、総合学科や単位制高等学校の設置を促進してきた。  国の教育行政機関は、内閣および文部科学省。国の行政権は内閣に属し、内閣総理大臣は行政各部を指揮監督する。内閣に直属して政策を立案し実施する省庁の中で主に教育行政を担当するのが文部科学省である。文部科学省は、2001年の中央省庁再編により文部省と科学技術庁が統合したものであり、その役割も政策官庁としての機能が強化された。文科省には中央教育審議会、教科用図書検定調査審議会等の審議会が置かれ、文科大臣の諮問に基づいて審議を行い、答申を行う。(『要説教育制度(新訂版)』p.176参照)
 図はhttp://www.mext.go.jp/b_menu/soshiki2/index.htmより
16  地方分権一括法は、1998年の中教審答申「今後の地方分権の在り方について」の答申内容を基本的に実現する法律となっており、そこでは、教育行政における国の役割を大幅に地方に委譲し、基本的な枠組みと基準設定が文科省の役割であるとされることとなった。 Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  指導行政とは、指導、助言、援助による法的拘束力を伴わない非権力的な行政行為をいう。教育基本法第10条に示されているように、教育行政は教育の諸条件の整備確立をその任務としており、また近年各教育委員会や学校の自主性、自律性を尊重し、教育活動が専門性を活かして自由かつ創造的に展開されるよう、教育行政が非権力的に作用することが望まれている。(『要説教育制度(新訂版)』p.180参照)
 また近年では、地方の主体性を尊重した指導助言規定の見直しが図られている。
 *都道府県及び市町村等の判断を過度に制約することのないようにすること
 *情報の収集・提供などの支援的な機能を重視していくこと
 *教育基本法や学校教育法等の法令に違背する教育行政の執行や学校の管理運営の是正に重点を置いて行われること
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 中央教育審議会は2000年以降、以下の分科会によって構成されている。①教育制度分科会、②生涯学習分科会、③初等中等教育分科会、④大学分科会、⑤スポーツ・青少年分科会。2003年中に以下の課題について答申が出されている。①大学設置基準等の改正。②新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方。③初等中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善方策。④新たな留学生政策の展開。  地方分権一括法(1999)に基づいて改正された地方自治法、地方教育行政の組織及び運営に関する法律が文部科学省と教育委員会との関係を規定している。地方自治法の規定によれば、文科大臣は教育委員会の自治事務に対しては、技術的助言勧告、資料提出要求、是正要求、指導、助言、援助、調整の権限を有する。第一号法定受託事務(都道府県に対して受託する事務)については、是正要求が是正指示となるほか事務処理基準設定の権限を有する。地教行法関係では、文科大臣は教育委員会に対して指導、助言、勧告、企画、援助、補助、調査の権限を有する。
 →『教育小六法』教育行政作用図の当該部分を転用(平成15年版p.1048) Wordファイル「教育行政作用図CRICED用」
18  「指導主事制度は戦後の教育行政改革における指揮監督的な教育行政から指導助言的教育行政への転換を象徴する制度である。この制度の趣旨は高度の専門的知識と経験に裏付けられた建設的な指導と助言によって学校を支援することにある。戦前の視学に代わり教育委員会に置かれる指導主事がその中心的役割を担い、教育課程や学習指導などについて校長や教師に専門的指導を行っている(『要説教育制度(新訂版)』p.180)。」市町村に置かれる指導主事には、市町村が独自に配置するものと、都道府県教育委員会から派遣されるものとがある。しかし、全国に市町村教育委員会は約3200あるが、指導主事が配置されている市町村は約3分の1にすぎない。
 →表はhttp://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/005/gai0002.htmより
Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  設置者負担主義=国、都道府県、学校法人がそれぞれ設置する学校の経費を自己負担する原則。しかし、様々な財政格差が実態としてあるため、教育財源の保障を目的とした学校経費負担の特例が多数設けられている。 19
 指導主事の職務については地方教育行政の組織および運営に関する法律第19条に以下のように規定されている。
 ●指導主事は、上司の命を受け、学校における教育課程、学習指導その他学校教育に関する専門的事項の指導に関する事務に従事する。
 ●指導主事は、教育に関し識見を有し、かつ学校における教育課程、学習指導その他学校教育に関する専門的事項について教養と経験があるものでなければならない。指導主事は大学以外の公立学校の教育をもって充てることができる。
  ①県の行う研修(教員研修→Ⅷ-15~22、Ⅷ-29~31)
  ②教科書検定(→Ⅱ-63)
  ③学習指導要領(→Ⅳ-13~16)
 格差是正のため、①垂直的調整制度としての国庫負担金・補助金制度、②水平的調整制度としての地方交付税制度が実施されてきた。また、国公立と私立との格差に対して私学助成制度が拡充されている。
 →グラフはhttp://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/15/01/030115b.pdf
20  公立小学校・中学校については、施設・設備の整備費の3分の1から2分の1が国庫により負担され、義務教育の教職員の給与等については2分の1が国庫によって負担されている。
 →『要説教育制度(新訂版)』p.185(これに合わせて最新のデータで作成)
Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  「法律に定める学校」の法原理として、教育の機会均等、公共性、中立性、無償性等を挙げることができる。例えば、公共性の観点から法律に定める学校の教員は教員免許を有し、教育課程は原則として学習指導要領に基づくことが求められる。中立性に関しては、私立学校では特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育との他政治的活動をしてはならないと教育基本法で定められ、政治的中立性が求められる。 21
 小学校の入学式で校長から新入児童に教科書が渡される。  1976年に創設された専修学校は、学校教育法第1条に定められた学校ではないが、近年施行規則や設置基準の改正により、高等専修学校と高等学校、専門学校と大学や短期大学との単位互換等の弾力化が図られるようになっている。(専修学校→Ⅰ-37~40)
22  初等・中等学校はそれぞれ各段階毎の目的とそれを実現するための目標が学校教育法によって規定されている。小学校の教育目的を実現するための目標に沿って各教科と道徳、特別活動といった教育領域が設定される。 Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  学校教育法第2条により、「学校は、国、地方公共団体及び私立学校法第3条に規定する学校法人のみが、これを設置することができる。」ただし、幼稚園と盲・聾・養護学校については当分の間学校法人であることを要しないとされている。学校を設置しようとする者は、学校の種類に応じて文部科学大臣の定める設備、編制その他に関する設置基準に従って設置しなければならない。 小学校・中学校の設置基準は2002年まで作られていなかった。これは小学校の99%、中学校でも94%が公立学校であり、 学校教育法施行規則や他の法律等で設置基準に相当する規定が整備されていたためである。しかし、私立学校の設置促進を図る 観点から2002年に設置基準が定められることとなった。 23
 第二次大戦後の教育改革によって改めて単線型学校体系として出発した日本の学校体系は、その後高等専門学校や専修学校、中等教育学校などさまざまな制度が付加されることにより、複線化してきているように見えるが、袋小路にならないような弾力化が同時に図られるようになっている。 解説なし。
24  学級編制の弾力化の例としては、例えば小学校1年生について、学年3学級以上で1学級の平均児童数が35人を越える学校について35人以下で編成する、あるいは児童数が概ね100人を超える学校できめ細かな指導が必要な場合35人以下で編成するなどがある。 Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  2002年に小・中学校設置基準が公布されるまで、ここに示す様々な法律や基準が小学校と中学校の施設・設備等の基準となっており、設置基準が制定されて後も機能している。近年は、児童生徒の増加に対応する施設整備の時代から文化的環境の整備や児童生徒の個性や教育方法の多様化に対応する施設整備に重点が置かれてきている。また、児童生徒数の減少や学校施設の地域への開放施策に対応して施設の複合化や再活用が課題となっている。(平原春好『教育行政学』、1993年、東京大学出版、p.227)
 その他の法令
①教育財政・施設関係法令・基準  
  ●公立学校施設災害復旧費、国庫負担法(施設の基準面積)
  ●理科教育振興法(理科教育設備の基準)
  ●へき地教育振興法(へき地学校の必要面積)
  ●公立養護学校整備特別措置法(公立養護学校の施設の基準)
  ●学校給食法、学校給食実施基準(義務教育諸学校の学校給食用施設及び設備の基準)
  
②その他の告示、指針、審議会報告等
  ●学校施設の文化的環境づくりについて(1982)
  ●教育方法等の多様化に対応する学校施設の在り方について(1988)  
  ●文教施設のインテリジェント化について(1990) 
  ●学校施設の複合化について(1991)
  ●学校施設整備指針(1992)
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 少子化の影響により、空き教室が存在する学校が多くなっている。そうした余裕教室を児童用の食堂として衣替えしたり、地域の人々や保護者が活用できるようにするなどの工夫がなされている。
 ①リラックスルーム〈カウンセリングルーム、中学校〉2005年5月
 ②余裕教室の活用(児童クラブ、小学校)2005年4月
 学校をとりまく自然的・物的・人的環境をあわせて学校環境という。学校環境には学校内の施設・設備、学級・学校規模、学校建築、地域社会の自然社会環境、さらに通学区域や通学路などきわめて多様な側面に関わる問題が含まれる。(『要説教育制度(新訂版)』、2003年、学術図書、p.76)
 *社会的条件
 ・大気汚染、騒音、振動被害など公害のないこと
   関係する法令
  (公害防止事業費事業者負担法、公害の防止に関する事業
  に係る国の財政上の特別措置に関する法律、公共用飛行
  場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する
  法律、防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律)
26  標準規模の学校とは、小学校・中学校とも12学級から18学級とされているが、全国的に見ると、学年1学級の小規模学校が多いことがわかる。ドーナツ化現象による大都市中心部の学校統廃合の問題は20年以上前から課題とされてきたが、近年では通学区域の自由化による学校選択の結果小規模学校となる学校の存続をめぐる問題などがある。(『要説教育制度(新訂版)』、2002年、学術図書、p.76)
 →表は  http://www.pref.shimane.jp/section/kyousou/kekkagaiyou/gaiyou02.html より
Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  保護者はその保護する子女を6歳から15歳まで就学させる義務がある。しかし、学校には在籍させているが様々な理由により不登校になっている子どもたちが増えている。そうした不登校の子どもたちに対する取り組みが政策の重点課題となっている。構造改革特別区域法により、学校教育法の特例として、学校設置会社による学校の他、不登校児童等を対象として特定非営利活動法人による学校設置が認められることとなった。(不登校→Ⅴ-20~24) 27
 IT化に対応した学校づくり、地域に開かれた学校施設など教育課題に対応した学校施設の改善が図られている。  病気等の理由による欠席ではなく、学校に行けない、行きたくないといった「不登校」を理由に年間30日以上学校を欠席した児童・生徒数は増え続けている。1999年の数字では、小学校で288人に1人、中学校で41人に1人が不登校とされている。(不登校の理由→Ⅴ-22・23)
 →表は http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/08/020820c.htm より
28  教育委員会では、子どもたちの心の居場所を保障すると共に一人ひとりの気持ちを大切にしながら自主活動や学習活動・集団活動・カウンセリング等を通して集団(学校)への復帰に向けての支援を行っている。本人・保護者の教室見学・面接の後、テスト通級を行い、通級の意志確認ののち学校との相談により決定するなどの方法がとられている。(不登校の対応策→Ⅴ-34・37)
 →表は  http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/12/12/001219j.htm より
 「適応指導教室」とは、不登校児童生徒等に対する指導を行うために教育委員会が、教育センター等学校以外の場所や学校の余裕教室等において、学校生活への復帰を支援するため、児童生徒の在籍校と連携をとりつつ、個別カウンセリング、集団での指導、教科指導等を組織的、計画的に行う組織として設置したものをいう。なお、教育相談室(→Ⅴ-30)のように単に相談を行うだけの施設は含まない。
Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  2002年に定められた小学校・中学校の設置基準で学校の自己点検・自己評価が努力義務とされ、併せて高等学校や専修学校など他の教育段階の学校設置基準にも同様の努力義務規定が追加された 29
 適応指導教室のほか、民間のフリースクール(→Ⅴ-25)、フリースペースなどと呼ばれている不登校の子どもたちに学習の場を提供する施設がある。適切であると判断されれば、これらの教室や施設に通うことによって学校への就学と見なすこともできるようになっている。(2004年2月)(不登校の対応策→Ⅴ-26~30)  マネジメント手法から発想された「目標による管理」をベースに学校評価をとらえるのが一般的になっている。具体的にはPlan(計画)、Do(実施)、Check(評価)、Action(更新)のサイクルに基づいて学校評価が行われることが多い。
30  最も重要なことは、評価の段階で何がどこまで達成されたのかを評価できるように、目標設定(計画)の段階で数値目標や行動目標をどのように設定するかであるが、学校教育には必ずしも数値等では示すことのでない領域や成果が少なくなく、また成果が単年度で示されない場合も多いため、検討すべき課題は少なくない。 Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  小学校・中学校設置基準では、学校の自己点検・自己評価とともに学校の情報を積極的に公開することを求める規定が設けられた。各自治体で定められている情報公開条例または個人情報保護条例により公開または開示される情報として、どこまで教育に関する個人情報を含むかについては、議論の分かれるところであったが、近年指導要録など本人への開示対象とされてこなかった情報についても開示を求める訴訟や請求が認められる事例が増えてきている。一方で、記載内容の形骸化が進んでいると指摘されている。 31
 外部評価は、まだ法令で義務となっているものではないが、自己点検・自己評価の妥当性を確かめるために外部評価を実施する学校も増えてきている。しかし、まだ保護者に対してアンケート調査を行い、参考にするといった取り組みが多い。一部では、教育学の研究者などを委員に加えることにより第三者性を持たせた外部評価の取り組みも見られる。  *被告(市教委)の主張 ①自己情報コントロール権は実定法で定められた権利ではない。本件のような個人情報の開示請求権は、条例で創設された権利である。 ②内申書を本人に開示すれば内容の公正さを守ることができなくなるなどの弊害が生じる。内申書は、条例が非開示と定める文書には含まれるから、開示拒否決定は違法ではない。
32  小学校6年間の指導要録の開示を求めた訴訟(原告は23歳の女性)で最高裁第三小法廷が2003年11月に成績評価などについて開示を認める判決を言い渡した。最高裁が指導要録の本人開示について判断した初の判決。「よい面、悪い面をありのままに記載した部分は、開示すると児童・生徒と教師の信頼関係を損なう可能性があるが、主観的要素が入る余地の少ない部分は非開示とすべきでない。」 http://www.asyura2.com/0311/nihon10/msg/699.html
 →表は www.psn.ne.jp/~jhc-cebc/s-zyouhou/naishin.htm より
Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  2002年8月現在で、公立小学校の50.2%に設置され、設置検討中は31.8%であるが、都道府県によってかなりばらつきがある。
 →表は http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/15/01/030112.htm より
(学校評議員の設置状況→Ⅶ-49)
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 学校評議員制度は「これからの学校が、より自主性・自律性を持って、校長のリーダーシップのもと組織的、機動的に運営され、幼児児童生徒の実態や地域の実情に応じた特色ある学校づくりを展開できるよう」「地域住民の学校運営への参画の仕組みを新たに制度的に位置づけるもの」(文部事務次官通知、2000年1月21日)とされ、父母・住民の学校運営に対する意向を反映させるとともに、学校としての説明責任を果たしていくことが求められている。  学校評議員の属性を見ると、保護者が18.2%と最も多く、自治会関係者、社会教育団体関係者がそれぞれ15.2%、学識経験者が10.6%、企業関係者が6.3%、同窓会関係者が5.2%となっている。
34  左から、教務主任(→Ⅵ-21)、副校長、校長(→Ⅵ-12~15)、学校評議員3名。 Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  教科書検定とは、申請のあった図書が教科用として適切であるかどうかを判定し、適切なものを教科書として使用できるようにすることをいう。手続きは次のように進められる。
 1.著作者又は発行者が図書の検定を文部科学大臣に申請、
 2.大臣は審議会の審査を受けて検定決定又は検定審査不合格の決定を行い申請者に通達、
 3.決定が留保された場合は、検定意見の通知、修正表の提出を受け、審議会による審査を経て検定決定又は不合格決定が行われる。大臣が検定審査不合格の決定を行おうとするときは、不合格理由を事前に通知し、反論を聴取する。検定意見の通知を受け20日以内に意見申立書が提出された場合、これを相当と認めるときは大臣は当該検定意見を取り消すものとする。(平原春好他著『現代教育法概説』2001年、学陽書房、p.101)
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 2002年「アピール」による「確かな学力」を保障するために、学習指導要領を「最低基準」ととらえ、教科書で「発展的な内容」を盛り込むことを認め、義務教育諸学校教科用図書検定基準が改正された。具体的には以下の通り。
 (1)小・中学校学習指導要領に示す目標に従い、内容及び内容の取り扱いに示す事項を不足なく取り上げていること。
 (2)教科用図書の内容には、学習指導要領に示す目標、内容及び内容の取り扱いに照らして、不必要なものは取り上げていないこと。ただし、本文以外の図書の内容において、学習指導要領に示す内容及び内容の取り扱いに示す事項との適切な関連の下、目標や内容の趣旨を逸脱せず、児童又は生徒の過重負担とならない範囲で、学習指導要領に示していない内容を取り上げることができること。 
 (3)図書の内容は、その学年の児童又は生徒の心身の発達段階に適応しており、その能力からみて程度が高すぎるところ又は低すぎるところはないこと。
 学校教育法第21条1項 小学校においては、文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学省が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならない。
 学校教育法第107条 高等学校、中等教育学校の後期課程、盲学校、聾学校及び養護学校並びに特殊学級においては、当分の間、第21条第1項の規定にかかわらず、文部科学大臣の定めるところにより、第21条第1項に規定する教科用図書以外の教科用図書を使用することができる。
36 解説なし。 Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  懲戒のうち退学・停学・訓告の3種類については校長がこれを行う。これらは一般に処分行為としての懲戒といわれる。懲戒にはこれらの他に叱責、起立、罰当番などの事実行為としての懲戒があり、これらは教員も当たることができる。また、学校単位で自主的に定める懲戒処分が見られる。例えば除籍、放校等は実質的に退学に準ずる懲戒処分とみなされるが、謹慎など生徒本人の同意の下で生徒指導上の措置として行われる場合、懲戒処分に当たらないとされることもある。「懲戒処分として行うならば手続き保障その他の要件が必要であり、生活指導措置として行うならば、本人の自由意志による承諾とそれを保障する手続きが 必要になる」(坂本秀夫『生徒懲戒の研究』学陽書房、1983)との指摘がある。教員の懲戒権の及ぶ範囲は自分の勤務している学校の 児童・生徒であり、基本的には直接授業を担当しているか否かに関わりなく懲戒権の行使が及ぶものとされている。ただし、 そのための前提として学校としての児童・生徒指導体制が確立しており、児童・生徒の正確や健康状態などについて教員の間に 深い共通理解があることが重要である。退学と停学の処分には適用制限があり、退学は、公立学校に在籍する学齢児童に対して これを行うことができず、停学は、学齢児童・生徒に対して行うことができない 37
 懲戒のうち退学・停学・訓告の3種類については校長がこれを行う。これらは一般に処分行為としての懲戒といわれる。懲戒にはこれらの他に叱責、起立、罰当番などの事実行為としての懲戒があり、これらは教員も当たることができる。「体罰」には、いわゆるなぐる・けるといった身体に対する侵害に留まらず、特定の姿勢を長時間保持させるなどの被罰者に肉体的苦痛を与えるような行為も含まれる。また、 同じ時間立たせるにしても、教室内と炎天下では苦痛の程度が異なるように、児童・生徒の年齢、健康、場所的及び時間的環境等 の条件を考え合わせて肉体的苦痛の有無が判断されなければならない。放課後教室に残すことは懲戒として認められるが、 用便のために室外に出ることを許さなかったり、食事時間を過ぎて長く留め置くなどは体罰に該当するとみなされている。  1991年に体罰を行ったことに対して懲戒処分を受けた教員数は監督者責任によるものを含めて196件であったが、2000年には428件と2倍強に増えている。  中学校の教員が生徒の頭部を手拳でたたいた行為に対して、「有形力の不法な行使として暴行罪が成立するような行為であっても、教育作用をしてその本来の機能と効果を教育の場で十分に発揮させるためには、懲戒の方法・形態としては単なる口頭の説教のみにとどまることなく、そのような方法・形態の懲戒によるだけでは微温的に過ぎて感銘力に欠け、生徒に訴える力に乏しいと認められる時は、教師は必要に応じ生徒に対し一定の限度内で有形力を 行使することも認められてよい場合があると判示された事件。しかし、この判決は体罰を肯定しているものではない。 本件判決以降の判例には体罰に厳しい判断を言い渡したものも見られる。
38  社会のノーマライゼーションの進展、教育の地方分権の推進等の障害児教育をめぐる状況の変化を踏まえ、障害のある児童生徒一人ひとりの特別な教育的ニーズに応じた適切な教育が行われるよう、就学指導のあり方を見直すために学校教育法施行令が2002年に改正された。 Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  2001年5月現在、盲・聾・養護学校及び小・中学校の特殊学級の在籍者並びに通級による指導を受けている幼児・児童・生徒の総数は約19万9000人、このうち義務教育段階の児童生徒は約15万7000人であり、これは同じ年齢段階にある児童生徒全体の約1.4%に当たる。近年、児童生徒の障害の重度・重複化や多様化、より軽度の障害のある児童生徒への対応や早期からの教育的対応に関する要望の高まり、 高等部への進学率の上昇、卒業後の進路の多様化、社会のノーマライゼーションの進展などが進んでいる。 (文部科学白書、2003、p.143)通級による指導の実施状況を見ると、約3万人の通級指導を受けている児童生徒の内、 言語障害の児童生徒が84%を占め、情緒障害が10%となっている。 39
 2001年5月現在、盲・聾・養護学校及び小・中学校の特殊学級の在籍者並びに通級による指導を受けている幼児・児童・生徒の総数は約19万9000人、このうち義務教育段階の児童生徒は約15万7000人であり、これは同じ年齢段階にある児童生徒全体の約1.4%に当たる。近年、児童生徒の障害の重度・重複化や多様化、より軽度の障害のある児童生徒への対応や早期からの教育的対応に関する要望の高まり、 高等部への進学率の上昇、卒業後の進路の多様化、社会のノーマライゼーションの進展などが進んでいる。 (文部科学白書、2003、p.143)通級による指導の実施状況を見ると、約3万人の通級指導を受けている児童生徒の内、 言語障害の児童生徒が84%を占め、情緒障害が10%となっている。  個別の教育支援計画は、障害のある児童生徒の一人一人のニーズを正確に把握し、教育の視点から適切に対応していくという考えの下、長期的な視点で乳幼児期から学校卒業後までを通じて一貫して的確な教育的支援を行うことを目的とする。計画の作成を担当する機関を明らかにして以下の内容を盛り込んだ計画を作成・改訂を行う。
 ①特別な教育的ニーズの内容
 ②適切な教育的支援の目標と内容
 ③教育的支援を行う者、機関
40 特別支援教室の授業風景。 Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  就学指導をめぐって、普通学校を希望する保護者と特別なニーズに応じられる教育施設を勧める教育委員会の間に紛争が起きる事例もみられる。就学指導が円滑に行われるためには、教育委員会が、学校の校長等と連絡をとりながら保護者等と緊密に就学相談の機会を持ち、その意見を聞き、信頼関係をつくりながら保護者等の理解と協力を得て就学すべき学校の判断を行うことが重要である」 (『要説教育制度(新訂版)』、2002年、学術図書、p.134) 41
 認定就学制度は、市町村の教育委員会が就学基準に該当する障害のある児童生徒を認定就学者として小学校又は中学校に就学させることができるとするものである。その際、指導面で専門性の高い教員が配置されていることなど就学のための環境が適切に整備されているかどうかなどに留意して判断することが求められている。 解説なし。
42  盲・聾・養護学校及び幼・小・中・高等学校学習指導要領において、交流教育の充実を図ることが規定されている。2001年度からは盲・聾・養護学校の児童生徒が、地域の同世代の子どもや人々と交流し、様々な活動を通して、自立や社会参加を促進するための方策について、実践的な研究が行われている。(『文部科学白書』、2003年、p.144) Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  基準点数とは、当該学校の所在地のへき地条件の程度の軽重を測定するために、各要素ごとの該当点数を合計した点数をいう。付加点数とは、基準点数の算定方法によっては補そくし難い特別のへき地条件を測定するために、飲料水を主として天水又は川水等から求めなければならない場合で揚水施設や配水施設がないなどの条件に該当することにより、学校教育の運営上困難を伴うと 認められるときに付加される点数をいう。 43
 へき地教育振興法の目的=教育の機会均等の趣旨に基づき、かつ、へき地における教育の特殊事情にかんがみ、国及び地方公共団体がへき地における教育を振興するために実施しなければならない諸施策を明らかにし、もってへき地における教育の水準の向上を図ること。  1990年度にへき地等指定基準の改定により指定学校数の増加を見たが、漸減傾向にある。しかし、北海道と鹿児島では指定学校の割合が小・中学校ともに4割を越えている。(『教育法規・重要用語300の基礎知識』、2000年、明治図書、p.102参照)
 →図は http://www.pref.niigata.jp/sec40/ja/tyouki/20zu.gif より
44  へき地教育振興法の他、離島振興法、過疎地域活性化特別措置法、豪雪地帯対策特別措置法などにもへき地の教育水準向上の役割を担う条項がある。地域の総合的な開発計画とともに教育振興が図られる必要があるとされている。(『教育法規・重要用語300の基礎知識』、2000年、明治図書、p.102参照)
 ①へき地の小学校 2004年10月、 ②小学校のプールと体育館 2004年10月、
 ③複式授業 2003年、
 ④テレビによる3校合同授業 2年生、算数、2004年7月
Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  1955年には学校数84校、生徒数5000人を越えていた。その後、社会の安定化と夜間中学で学ぶ中学生を昼間に学習させるという国の方針などにより、1968年に400人あまりに減少するが、夜間中学の増設を求める運動によって2002年4月現在では全国に35校、3000人あまりが在学している。その間、1971年には文部省より財政補助が開始され、同年には東京で「引揚帰国者のための日本語学級」が 開設された。1994年には、夜間中学に日系南米人生徒が急増する。一方、 1980年代に入ると夜間中学で元不登校の若年生徒が 増加する。 45
 第2次大戦後の混乱の中で生活のために働かなければならず、学校に行くことのできない子どもたちに学びの場を提供するために、1947年に大阪で夜間中学が設置されたのが始まりであった。全国各地に広がりを見せた。生徒の年齢は10代から80代まで幅広く、様々な事情によって中学校教育を受けられなかった人々や在日韓国・朝鮮人のほか、近年では中国からの引き揚げ者、難民、 外国人が多くなっており、彼らにとっての重要な日本語学習の場となっている。  夜間中学在籍者の内訳を見ると、日本人は22.1%、在日韓国・朝鮮人26.7%、帰国者32.2%、難民1.5%、移民0.5%、その他の外国人16.7%(2002年9月現在)であるといわれる。(津花知子、「夜間中学で学ぶ好例帰国者の学習環境と学習支援について」(早稲田大学修士論文)http://www/kikokusya-center.or.jp/resource/ronbun/kakuron/28/028all.pdf)
 ①午後6時46分。手前は全日制の中学生。普通中学の中に夜間学級がおかれている。
 ②時間割、③給食、④午後8時30分 4限目、
 ⑤日本語(Eクラス:普通学級 第1学年)
 ⑥数学(Dクラス:日本語学級 第3学年)
 ⑦英語(Dクラス:日本語学級 第3学年)
 ⑧美術(美術室)、⑨夜間学級概要、⑩年間行事
46  中学校卒業程度認定試験は就学義務猶予・免除者について高等学校入学に当たり中学校卒業者と同等以上の学力があるかどうかを認定する試験であり、1967年より実施されている。試験科目は中学校の国語、数学、社会、理科及び外国語である。試験科目の内、一部の科目について合格点を得た者は科目合格者とされ、次の年度からはその科目についての受験は免除される。 Ⅱ 日本の教育行財政 Ⅱ 日本の教育行財政  中学校卒業程度認定試験会場
①県庁
②県庁内の会議室
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 1968年には戦争や貧困等で義務教育を受けられなかった人々や義務教育を修了できなかった人々も受験資格を与えられることとなった。1997年度からは不登校の子どもたちも受験できるようになり、更に1999年度からはインタナショナル・スクールや外国人学校の卒業者、在学者にも受験資格が認められることとなった。 88
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